「ルパン大盗伝」(横溝正史)

もしかしてアニメの「ルパン」の先駆け!?

「ルパン大盗伝」(横溝正史)
(「横溝正史探偵小説選Ⅰ」)論創社

「横溝正史探偵小説選Ⅰ」論創社

ルパンが助けた老婆は、
実は掏摸だった。
ルパンは老婆を尾行し、
その部屋へと侵入する。
だが、そこに待ち受けていたのは
二人分の食事と若い美女。
それは大物政治家の令嬢
クラリスだった。
シャンパンを飲み干した
ルパンは…。

前回は横溝正史翻訳のA.A.ミルン
「赤屋敷殺人事件」を取り上げましたが、
今回は「ルパン大盗伝」。
もちろんモーリス・ルブラン
ルパン作品の翻訳ですが、
こちらは作者ルブランの名前が
記されていません。
実はルブランの「水晶の栓」をもとに、
登場人物名だけを借り受け、
筋書きのほとんどを横溝が
創作してしまったという、
「翻訳」どころか「翻案」をも逸脱した
困った作品なのです。
さて、老母を追って部屋に侵入すると
そこには若い美女が。
シャンパンと食事を振る舞われ、
満腹となったルパンはどうしたか?
そのまま昏倒し、意識を失うのです。

【主要登場人物】
アルセン・ルパン
…怪盗紳士。事件に巻き込まれる。
 ※なぜか英国読み
アシル
…ルパンの部下。
クラリス・メルジイ
…老婆に変装し、ルパンを招く。
 大物政治家
 ビクトリアン・メルジイの娘。
アルモンド・メルジイ
…クラリスの弟。
ドーブレク
…暗躍する代議士。
 政界で力を振るう。
 メルジイに求婚を迫る。
クレマンス
…ドーブレク邸の女中。
シモンズ
…ドーブレクの手下。
プライスビイユ
…警視総監。前代議士。
 政治的な力もある。
サンサン
…ドーブレクの別荘で殺害された女優。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
幾度となく醜態をさらすルパン

かっこいいところを見せるのかと
思いきや、
ルパンはいきなり醜態をさらします。
本作品のルパンは、
常に失敗を繰り返しているのです。
試みに列挙してみると
以下のようになります。
 ①老婆に財布をすられる
 ②見抜かれていた老婆への尾行
 ③毒入りシャンパンで昏倒
 ④バレバレのドーブレク邸侵入
 ⑤ドーブレクに縛り上げられる
 ⑥醜態をクラリスの前に晒される
 ⑦窮地をクラリスに救われる
 ⑧変装してもバレバレ
 ⑨警視総監に対して下手に出る
 ⑩再びドーブレクに変装がばれる
 ⑪細工付きの椅子に羽交い締め
 ⑫椅子に固定のまま最終場面に突入
「ルパンってこんなに
かっこ悪かったのか」と、
ルパン・シリーズを読んでいない方
(私も読んでいないのですが)は
誤解してしまうはずです。

本作品の味わいどころ②
敢然と悪に立ち向かうクラリス

ところがそれに対して
か弱き女性のクラリスが、
見事に立ち回ります。
最終場面の窮地を
椅子に固定されたままのルパンに
助けられた以外は、ほとんど彼女が
事件を解決したようなものです。
彼女の活躍も挙げてみましょう。
 ①巧みな変装でルパンを部屋に招待
 ②昏倒したルパンを介抱・救出
 ③自殺を装い敵を欺く
 ④催眠術をはねのけルパン救出
 ⑤何とかして敵アジト脱出
政界の大物から
「水晶の栓」を奪還するために
呼び寄せたルパンが
まったく役に立たなくても、
諦めることなく立ち向かうクラリス嬢。
本作品の主役は彼女なのです。

本作品の味わいどころ③
アニメ的テンポで進行する物語

つまり、これだけのルパンの失態と
クラリスの活躍が、
めまぐるしく展開する筋書きなのです。
後年の横溝の長篇作品は
おどろおどろしいあまりに
鈍重な展開が目立ったのですが、
昭和4年(1929年)執筆の
本作品の展開のその速いこと。
まるで現代のアニメを
見ているかのようです。

で、ふと気がつきました。
本作品のルパンは、
ルブランの「ルパン」ではなくて、
アニメ「ルパン三世」の
「ルパン」の先駆けではないかと。
確かにアニメでのルパンは
こんな役回りをいつも演じていました。
そして映画の「ルパン三世」には
クラリスなる可憐な少女も
登場していましたし。

本家本元のルブランが読んだら
激怒すること間違いなしの本作品、
しかしながらこれはこれで
十分に面白く読むことができます。
貴重な作品を次から次へと
出版してくれる論創社に
大きな拍手を送ります。

(2023.1.13)

〔動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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〔追記〕
原作であるルブランの「水晶栓」を
読みました。驚きました。
なんと原作でもルパンは
失敗の連続だったのです。
作品の分量の約9割までが
ルパンの失敗譚のようなものなのです
(もちろん最後の最後に
大逆転となるのですが)。
アルセーヌ・ルパンといえば
スマートで理知的で紳士的で
お洒落というイメージが
植え付けられているのですが、
決してそうではなかったのです。
横溝の描いたルパン像は、
あながち間違いではないのです。

しかし筋書き自体はまったく別物です。
登場人物名と
重要書類の隠し場所以外は、
ほとんど別作品になっているのです。
翻訳や翻案では済まされない、
まったくの「創作」です。
それでいいのです。

(2024.2.2)

【関連記事:横溝作品・翻訳&創作】

〔論創社「横溝正史探偵小説選」〕

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「ルパン傑作集Ⅰ 813」
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「ルパン傑作集Ⅳ 強盗紳士」
「ルパン傑作集Ⅴ ルパン対ホームズ」
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「ルパン傑作集Ⅶ バーネット探偵社」
「ルパン傑作集Ⅷ 八点鐘」
「ルパン傑作集Ⅸ ルパンの告白」
「ルパン傑作集Ⅹ 棺桶島」

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